■神経回路の働きと動物の行動
●生命科学の進歩により様々な生命現象を分子レベルで説明することが可能になったことにより、バイオテクノロジーが強力となり生命と関連のある多くの分野に大きな変化をおこしています。核酸やタンパク質等の生体高分子はバイオテクノロジーの鍵となる分子であり、その機能や構造の解明は基礎的であるばかりでなく、応用上も重要です。当研究室では、神経機能に必要なタンパク質の機能や構造の解明を行っています。■研究テーマ

CABA受容体ρ3サブユニット
細胞外領域の立体構造モデル
▼チャンネル連結型受容体の構造と機能に関する研究
▼神経機能に必要な機能未知遺伝子の研究
▼神経回路網のシミュレーションによる研究

化学シナプスの構造
チャンネル連結型受容体の構造と
機能に関する研究
●チャンネル連結型受容体は、神経伝達物質の結合により開閉するイオンの通路を構成するタンパク質です。神経細胞間の刺激の伝達に必要なタンパク質であり、多くの薬剤はこれらの受容体に結合することによりその作用を発揮します。
多くの知見が蓄積されていますが、受容体の構造の一部が生体膜に埋め込まれているため、神経伝達物質の結合がどのようなしくみでイオンの通路を開くかがよくわかっていません。
また、一つの受容体の構成には複数種類のタンパク質が合計5つ集合する必要があることも研究を困難にしている原因です。
当研究室で発見したGABA受容体ρ3サブユニットは、一種類のタンパク質のみで受容体を構成できるタンパク質です。この特徴を生かして構造と機能を研究しています。 ●小脳と他の非神経組織での遺伝子発現の検出数を比較し、小脳から偏って検出される遺伝子を選択しました。
図の縦軸は一種の偏差値で、値が大きいと発現が小脳に偏っていることを示しています。横軸は遺伝子の数を示します。

マウス小脳で機能している遺伝子の検出

線虫の神経細胞における遺伝子発現

遺伝子ノックアウトによる機能の研究
神経機能に必要な機能未知遺伝子の
研究
●ヒトを含む高等生物の生命活動は約2万の遺伝子の働きにより定められています。現在のところ40%の遺伝子についてはその働きが分かっていません。この機能未知遺伝子の中から神経機能に必要と予想される遺伝子を選択し、その機能を解明するための研究を行っています。
遺伝子の選択の基準は、神経細胞で機能していることが予想されることおよび遺伝情報より生成するタンパク質のアミノ酸配列が多細胞生物で良く保存されていることです。
実験材料としては、生物学的に詳細に解明されており、多くの遺伝子工学の研究手法が適用できる線虫C. elegansを主に用いています。
神経回路網のシミュレーションによる研究
線虫の神経細胞の数は 302 個で、高等生物と比べると非常に少ないですが複雑な機能を保持しています。
また、全ての神経細胞に名前が付けられて区別されており、全ての神経の間の結合が全て分かっています。
これらのデータを生かし、コンピュータ上で線虫の神経回路の機能を再現する研究を行っています。
●下図は線虫の頭の部分の神経回路で、頭の運動に関係するものを示しています。

線虫の神経回路
シミュレーションの結果から、黒地の細胞は興奮性、白地の細胞は抑制性である可能性が高いことが示されました。