■ 生命工学分野
動物行動の神経基盤と脳微小循環機序
荒木研究室
Keyword
・脳・遺伝子・遺伝子破壊
|
■主な研究内容
●脳は体の中でも最も複雑かつ大切な器官の一つであり、例えば老化に伴う体の衰えの大きな原因の一つとして、脳がうまく働かなくなることが挙げられます。ところで、複雑な構造を持つ脳も、もともとは一層の細胞のシートから成る単純な構造をとっています。そのような単純な構造から非常に複雑な構造が産み出すメカニズムを、私たちは主にニワトリ胚をモデル動物として、遺伝子・タンパク質レベルで理解しようとしています。
初期発生において用いられる遺伝子カスケードは、発生終了後も様々な局面で異なる状況下で使い回されることからも、このような基礎研究は、疾患やケガ、老化に伴う脳の不具合を分子レベルで理解し、治療法を見つけていくのに重要であると考えられます。
また、先天性の脳疾患の発症機構の理解や治療法の開発にも結びつきます。これと平行して、遺伝子の機能を解析する上で便利なツールの開発も行っています。このようなツールは、生命科学分野の基礎研究に留まらず、製薬や畜産など幅広い分野への応用が期待されます。
■研究テーマ
- 脳の層構造形成の分子機構に関する研究
ニワトリ胚中脳視蓋層構造形成時の細胞分化に関わる遺伝子・タンパク質の機能解析 -
四肢の発生ならびに再生に関する研究
アホロートルの腕や脚を切断しても完全に再生するのに、高等脊椎動物で再生しないのはなぜか? - ガン関連タンパク質の機能解析
Nodal細胞外シグナリングの調節因子isthmin等、AMOPドメイン含有タンパク質の機能解析 - 汎用性の高い遺伝子ターゲティング法の開発
ニワトリやゼブラフィッシュ、線虫などのモデル動物における遺伝子ターゲティング法の開発 - 安価な遺伝子導入装置の開発
エレクトロポレーション(電気穿孔)法による遺伝子導入のための電気パルス発生装置の開発

電気穿孔法によるニワトリ胚への遺伝子導入。
ここでは緑色蛍光タンパク質(GFP)遺伝子を
発生中の間脳後部から後脳前部にかけて導入している。


1.5 日胚の発生中の脳の左側に Engrailed 遺伝子を導入し1週間培養したところ、間脳が中脳に変化した。
Engrailed遺伝子は間脳の発生を抑制し、中脳の発生を促進する

N末端側を欠損した Isthmin1 ゼブラフィッシュ胚に導入すると、正常胚(左)では
体の左側で発現する lefty1 遺伝子が左右両側で発現するようになる(右)。
isthmin1遺伝子は、左右軸形成に関与する
脳の領域化の分子機構に関する研究
●Engrailed遺伝子は発生中の中脳前端から後脳前方部分までの領域で発現する転写因子をコードする遺伝子です。
この遺伝子を除去したマウスは、中脳や小脳が欠損することが知られていましたが、その表現型の意義やこの転写因子の詳細な役割についてはわかっていませんでした。
さらに、このときEngrailedが間脳発生に重要な遺伝子Pax6をおそらく直接抑制することを示唆するデータが得られました。
逆にPax6遺伝子は、間接的にEngrailed遺伝子を抑制しました。
以上の結果から、間脳-中脳境界はEngrailed遺伝子とPax6遺伝子の相互抑制作用により決定されることが示唆されました。
AMOP含有タンパク質の機能解析
●AMOPドメインを含むタンパク質をコードする遺伝子のうちのひとつ isthmin1は、背側オーガナイザーや予定中内胚葉、中脳後脳境界などで発現する分泌性タンパク質をコードします。Isthmin1のN末端を欠く欠失変異タンパク質をゼブラフィッシュ初期胚において過剰発現することにより、背腹軸や脊索前板、内胚葉、左右軸に関する異常が誘導されました。
これらの表現型は、 Isthmin1がNodalシグナリングの調節に関与することを示唆します。