精密合成すなわちファインケミカルは、医薬品・農薬・液晶分子といった多品種・少量生産で付加価値の高い化学製品のことを言います。これには触媒的有機合成が欠かせず、医薬品合成で最も使用されているカップリングではPd触媒が用いられているなど、複数のノーベル賞触媒が報告されている化学を代表する分野です。そこで当研究室では、実用性的工学視点と真理追求の理学視点による研究の遂行を理念とし、環境調和型有機合成を実現するための触媒反応の開発研究を行っています。触媒の視点から医薬品技術を支える事を目標としています。
金属錯体触媒を用いた有機合成は医薬品合成に欠かせませんが、金属は高価であり将来的には枯渇する懸念があります。当研究室ではそうした金属錯体触媒を高活性化し使用量を低減化する事で安価で省資源的な触媒反応の確立を目指し、配位子と呼ばれる触媒を高活性化する化合物を開発しています。これまでにフッ素を導入したユニークな配位子を開発することで、世界最高レベルの触媒活性を示す金属錯体触媒の開発に成功し、その配位子は、大手試薬メーカーから販売が開始されました(Link)。
レアメタルの枯渇に対して、金属触媒を有機分子触媒に置き換える方法があります。有機分子触媒は21世紀に発展してきた新しい分野で当研究室でもその開発を行っています。当研究室で開発した新規パーフルオロシクロペンテン誘導体は、空気中でグリニャール試薬の酸化的ホモカップリング有機分子触媒として働き、2〜10 mol%の触媒量で効率的にビアリール生成物を与えることがわかり、環境調和型の新たなタイプの有機分子触媒を生み出すことに成功しました。この触媒は最近、大手試薬メーカーから販売が開始されました(Link)。
製薬企業における有機合成の役割は、「創薬研究」と「プロセス研究」です。当研究室で開発された触媒を用いると、その両方に寄与することが出来ます。これまでに当研究室で開発した触媒を用いて、複数の医薬品や生理活性化合物の効率的なプロセス合成に成功しています。また、生命コースや農学部の先生との共同研究で、網膜に関する新薬の探索研究も行っています。
触媒を開発するためには、触媒反応機構の正しい理解が必要となります。しかし反応を支配している”遷移状態”は実験で求めることができず、量子化学計算により初めて解析することが可能となります。当研究室ではこの難易度の高い触媒反応の遷移状態解析を実施し、自身で開発した触媒や、他大学で開発された触媒の反応機構の解析を行っています。最近では、理論計算による触媒設計も行い、医薬品合成中間体を効率的に合成できる触媒の開発にも成功しました(Link)。
・東北大学大学院理学研究科
・東北大学大学院薬学研究科
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