重要な金属錯体素反応の一つである還元的脱離における、ジホスフィン配位子の電子的効果を調査しました。教科書には、還元的脱離反応は中心金属の電子密度が低下すると反応速度が増大すると書かれています。我々は、DPPE類縁体を有する白金錯体からのビフェニル生成の反応速度を調べた所、Ar基をフェニル基からC
6F
5基に換えると、約1,200倍もの反応加速効果が得られる事を見出しました。電子不足なホスフィンが還元的脱離反応を加速させる事は知られておりましたが、立体効果に匹敵する電子的加速効果を数値的に示した例はこれが初めてです。

この電子不足なホスフィンによる還元的脱離の大きな加速効果を理解するためDFT法による量子化学計算を行ってみた所、還元的脱離の反応速度は白金の電子密度ではなくd軌道のエネルギー変化に依存している事がわかりました。計算から得られたエネルギーと実測の活性化エンタルピーとの相関関係をさらに詳細に調べてみると、高度に電子不足なホスフィンは遷移状態における白金-リンの反結合性軌道による軌道エネルギーの不安定化を緩和する効果により反応速度を加速している事を突きとめました。
論文発表
1) Korenaga, T.; Abe, K.; Ko, A.; Maenishi, R.; Sakai, T.
Organometallics 2010,
29, 4025. [
IF=4.145]
電子的効果による不斉ボラン還元のエナンチオ選択性の制御
オキサザボロリジンによるケトンの不斉ボラン還元は、非常に実用的な方法として知られておりますが、トリフルオロアセトフェノンの様な非常に電子不足なケトンではラセミ体の生成物しか得られません。これはトリフルオロアセトフェノンがあまりにも還元されやすいため、不斉触媒が存在していても、還元剤であるBH
3によって無触媒の還元反応が起こってしまうためです。そこで我々はオキサザボロリジン上に電子求引性含フッ素芳香環を導入する事でルイス酸性を向上させる事で、トリフルオロアセトフェノンの高エナンチオ選択的不斉ボラン還元を実現しました。

この反応の遷移状態を計算してみると、触媒上の置換基Rの立体効果は反応のエナンチオ選択と関係ない事がわかりました。また、触媒上の置換基Rによるホウ素の空軌道エネルギーの変化とケトンのHOMOの軌道エネルギーの差と、生成物のエナンチオ選択性は、極めて高い相関関係にあり、この反応系では、生成物の不斉収率は触媒の電子的効果により制御されている事がわかりました。
論文発表
1) Korenaga, T.; Nomura, K.; Onoue, K.; Sakai, T.
Chem. Commun.
2010,
46, 8624. [
IF=6.378]
有機分子触媒反応の遷移状態の解析
次世代型触媒と期待されている有機分子触媒は現在大変注目されている分野であり、そのメカニズムを明らかにすることは今後の触媒設計のために大変重要です。他大学の研究室と共同研究を行い分子軌道計算によるメカニズム解析を行っています。
論文発表
1) Terada, M.; Komuro, T.; Toda, Y.; Korenaga, T.
J. Am. Chem. Soc.
2014 136, 7044. [
IF=12.113]
2) Mandai, H.; Fujiwara, T.; Noda, K.; Fujii, K.; Mitsudo, Korenaga, T.;
Suga, S.
Org. Lett.
2015,
17, 4436. [
IF=6.364]
その他
上記のほかにも、量子化学計算を駆使し、反応機構や有機化学の現象解明の研究を行っています。
論文発表
1) Korenaga, T.; Nomura, K.; Minami, S.; Sasaki, H.; Sakai, T.
Tetrahedron: Asymmetry 2008,
19, 695. [
IF=2.115]
2) Korenaga, T.; Shoiji, K.; Onoue, K.; Sakai, T.
Chem. Commun.
2009, 4678. [
IF=6.378]
3) Korenaga, T.; Kobayashi, F.; Nomura, K.; Sakai, T.; Shimada. K.
J. Fluorine Chem.
2013,
156, 1. [
IF=1.939]