医薬品や材料などの有用物質の製造には有機合成の技術が欠かせません。省資源化が求められている現代社会では有用化合物をより効率的良く経済的に生産するために、効率的な新規反応や環境適応型の新世代の合成法がいっそう強く求められています。そこで当研究室では、実用性を求めた工学的発想と真理を求める理学的追及による研究の遂行を理念とし、複雑な有機化合物の効率的合成法を目指す有機合成グループと、環境調和型有機合成を実現するための新たな手法開発を目指す触媒反応グループの二つのグループでそれぞれ研究を行っています。これらのグループでは国際的に評価の高い独自技術をそれぞれ有しており、その独自性を基に実用性の高い有機合成技術の開発を目指しています。ここで得られた新規有機合成法や新規触媒反応はものづくりのために不可欠な基礎技術であり、機能性材料や医薬品などさまざまな有用物質の合成に利用可能で、広く社会に貢献する事ができます。
有機合成グループでは、含カルコゲン複素環化合物やヘテロ原子を含む活性化学種の高い化学反応性が、巧妙な制御によって化学種の合成化学的利用が可能になる点に着目し、多様な有用有機化合物の簡便供給に直結する、環境負荷の小さな新合成反応の実現を目指しています。更にこの考え方に基づき、カルコゲン原子と炭素原子の多重結合を含む活性化学種の効率的発生と、それらを用いる生理・薬理活性化合物(医薬品のもととなる物質)の短段階合成について研究を行っています。
◎含カルコゲン活性化学種の特異な化学反応性を用いる有機合成
カルコゲン元素は、第16族に属する元素の総称であり、酸素・硫黄・セレン・テルル等がこれにあたります。有機合成グループでは、硫黄・セレン・テルルを含むカルコゲノカルボニル化合物と呼ばれる分子の効率的発生法の構築に成功しました。この新しい化合物は高い反応性を有しており、これを有機合成反応に利用する事で、δ-チオラクタム、γ-チオラクタムといった生理活性物質の構成要素を持つ化合物の短段階合成が達成できました。
◎複素環化合物の特異な化学反応性を用いる天然有機化合物・医薬品の合成
ピリジン誘導体は数多くの天然物や医薬品の構成要素となっており、生体内の生理作用においても重要な役割を担っています。有機合成グループでは、ヘテロ環化付加と呼ばれる鍵反応を利用する事で多置換ピリジン類の高位置選択的合成に成功しています。この生成物を用いてさらなる環化反応を行えば短段階かつ簡便な縮環ピリジン系アルカロイド骨格の構築が可能であり、天然物化合物や医薬品の開発が期待されます。
嶋田教授の研究の詳細 Link
嶋田教授の研究インタビュー Link
資源の乏しい我が国が高機能性物質を合成するためには、極めて効率的なプロセスを必要とします。触媒反応は、ごく少量の触媒により通常の有機合成法では合成不可能な化合物を短工程で合成可能にする省資源かつ経済的な有機合成に欠かせない手法です。実際、化学工業の80%以上は触媒反応を用いているとも言われており、ノーベル賞反応も多く出ている正に世界最先端の分野です。当グループでは、我が国が提唱する元素戦略に沿って、現在最も活用されている金属錯体触媒の高活性化による触媒量低減化の研究や、枯渇が懸念される金属を用いない有機分子触媒という次世代型の触媒開発を行っています。さらにそれら触媒反応の計算化学により触媒反応の本質を解明する研究も行っています。
◎高活性金属錯体触媒の開発
金属錯体触媒を用いた有機合成は通常の有機合成とは比較にならない程の威力を示しますが、金属自身が高価であり、また将来的には枯渇する懸念があります。触媒グループではそうした金属錯体触媒を高活性化し使用量を低減化する事で安価で省資源的な触媒反応の確立を目指し、配位子と呼ばれる触媒を高活性化する化合物を開発しています。これまでにフッ素を導入したユニークな配位子を開発することで、世界最高レベルの触媒活性を示す金属錯体触媒の開発に成功し、その配位子はごく最近、大手試薬メーカーから販売が開始されました(Link)。開発した触媒を用いれば有用化合物の効率的合成も可能となり、実際にいくつかの医薬品化合物の効率的合成にも成功しています。
是永准教授の研究の詳細 Link
・岩手県立大学
・東北大学大学院理学研究科
・京都大学化学研究所
・岡山大学大学院自然科学研究科
・熊本大学大学院生命科学研究部
・関東化学株式会社
・日本化学会
・日本化学会東北支部
・有機合成化学協会
・アメリカ化学会
・International Society of Heterocyclic Chemistry
・バングラディッシュ化学会
・近畿化学協会 有機金属部会
・日本フッ素化学会