岩手大学

Research


研究テーマ
 1. はじめに  
 2. 必要な知識  
 3. 研究テーマ   
3−1. 高分子合成法 シリル化法
逐次重合における分子量制御
逐次重合系高分子の精密合成
酸化重合における位置選択的カップリング
 3−2. 機能性高分子  トリアジン系機能性材料
    熱硬化性イミドオリゴマー
    液晶配向膜
    有機・無機ハイブリッド材料
高屈折率材料
    低誘電・低誘電損失材料
    コーティング材料
    燃料電池用プロトン伝導性フィルム
    感光材料
    生分解性ポリマー

.はじめに
 低分子であるモノマーを順序良く結合させ分子量の大きな分子を合成すると巨大分子であるポリマー(高分子)が得られます。ポリマーには低分子にはない特異な性質が現れます。私たちの研究室では、ポリマーの合成から、ユニークな物性の発現まで幅広く研究を行っています。私たちの研究室は機能性高分子化学講座ですが、有機反応の面白さを追求するとともに、分子設計に基づく材料開発も行っている高分子科学研究室です。
 2009年度は、大石教授(5-108)、芝ア准教授(5-109)、大学院生11人、学部卒業生9人、研究補助員2人、事務員1人で構成されております。実験室は3部屋に分かれており、それぞれドラフトチャンバーを備えた有機合成実験室です。所有する測定機器は、赤外吸収分光器、熱分析(TG/DTA,TMA,DMA)、引っ張り試験装置、ホットプレス機、ガスクロマトグラフィー、ゲルろ過液体クロマトグラフィー、アッベ屈折計、偏光顕微鏡、蛍光分光器、インピーダンスメーターなどです。これらの他に、学内共通機器として、核磁気共鳴装置、紫外可視分光機、電子顕微鏡、原子間力顕微鏡があり、十分な研究環境が整えられています。


2.必要な知識
 大学の研究室に所属するためには下記の知識が必要になります。これらをきちんと履修していない場合には卒業研究が進められず、留年することになります。また、せっかく専門的な知識と技術を習得しても、社会でそれらを生かせないことにもなります。1〜3年次までにきちんとした学習を心がけてください。
 ・人間としての教養(全学の教養科目で履修できます)
 ・数学(研究に必須です)
 ・語学(報告書や卒論に必須です)
 ・基礎化学(研究に幅を与えます)
 ・有機化学(必須です)
 ・高分子科学(必須です)
 ・レオロジー(学んでおいた方がよいです)
 
3.研究テーマ
3−1.高分子合成法

3−1−1.シリル化法
 高分子を合成するには、複数の反応性官能基が必要になります。これらが順に反応することで、目的とする巨大分子ができるのです。たとえば、活性アシル基である酸クロリドとアミンが求核置換反応することでアミドが生成します。ここで、アミンをシリル化しておくと酸アミド生成の選択性が向上し、より高分子量体のポリマーが得られます。また、N−シリル化モノマーを用いることで、重合系中に塩酸の発生を抑制することができます。当研究室では、N−シリル化アミンを前もって合成しておかなくても、重合系中にシリル化剤を添加するだけでN−シリル体が系中で生成し、すみやかな重合が進行することを見出しております。

3−1−2.逐次重合による分子量の制御
 石油由来の合成高分子は、その合成法により二つに分類されます。一つがビニル重合に代表される付加重合、もう一つが逐次重合です。モノマーを反応させて高分子量化する際に問題となるのがポリマーの分子量(大きさ)です。付加重合ではリビング重合法という技術によりポリマーの分子量を厳密に制御することが可能です。また、得られるポリマーの鎖長は大変揃っています。一方、逐次重合では分子量の厳密な制御が困難であり、また得られるポリマーの鎖長もバラバラです。これは重合の種類が異なるためです。2000年に神奈川大学の横澤教授らにより逐次重合でも厳密な分子量、分子量分布の規制が可能となる重合系が見出されました。翌年、当研究室でも異なる重合触媒により、逐次重合の制御を達成しました。

3−1−3.逐次重合系高分子の精密合成
 上記得られた逐次重合の分子量制御技術を用いて、櫛形ブロックコポリマーの精密合成に挑戦しています。異なるセグメント中らなる高分子は、自己組織化により相分離構造体をとることが知られております。私たちは、硬い骨格を有する縮合系高分子が織りなす高次構造体に興味を持ち、研究を続けています。


3−1−4.酸化重合における位置選択的カップリング
 ポリマーを合成するには活性な官能性反応基が必要になります。しかし、活性であればあるほど、モノマーの貯蔵安定性は悪くなり、いざ重合しようとしたときにはモノマーがその活性を失っているということはよくあることです。フェノールは安定な分子ですが、酸化剤が存在することで着色します。これはフェノールが酸化されて、キノンなどの構造体が生成したためです。この反応はいわゆるラジカルカップリング反応であり、酸素が消費されて水が生成します。大変クリーンな反応であり、実は生体内でもこれと類似の反応が頻繁に起こっています。ラジカルカップリング反応ですから、反応性が大変高く、反応サイトを制御しない限り、得られる構造体はぐちゃぐちゃの混合物になります。私たちの研究室ではこのラジカルカップリング反応の位置選択性に関して研究を展開しており、新しいエンジニアリングプラスチックの創製を目指しています。

3−2.機能性高分子
3−2−1.トリアジン系機能性材料

 トリアジン環は大変ポピュラーな骨格です。主に農薬として使用されており、工業的に大変安価に入手可能です。塩化シアヌルは3官能性化合物であり、これとジアミンを反応させることでトリアジン環含有直鎖状ポリマーが得られます。これは、塩化シアヌルのC−Clの反応性が一つ反応するごとに低下するためです。残存するC−Cl部位に、もしくは重合前にこの部位に適当な置換基を容易に導入することができますので、機能を有するポリマーを得ることができます。私たちの研究室ではトリアジン環含有機能性高分子として様々な研究を展開してきました。

3−2−2.熱硬化性イミドオリゴマー
 熱可塑性樹脂は熱を加えると柔らかくなりますので、大量生産する成型材料にうってつけですが、高温で高ストレスがかかる厳しい条件下で使用したい場合には、不適当です。この目的で使用できる材料は、熱をかけると益々硬くなる熱硬化性樹脂です。熱硬化性樹脂の最高のものがポリイミドです。ポリイミドは、正確には熱硬化性樹脂ではありません。耐熱性が高すぎるため、高温でも変形しないだけです。従って、ポリイミドの成型には困難が伴います。特に炭素繊維やガラス繊維などと複合化する際に、ポリイミドは使用困難です。そこで開発されたのが、低分子量のイミドオリゴマーです。オリゴマーであれば溶剤にも溶けやすく、上記繊維との親和性も高いため、複合化が可能です。私たちの研究室ではトリアジン環を導入したイミドオリゴマーを合成し、複合材料化を検討しています。トリアジン環含有イミドオリゴマーは、トリアジン環の嵩高い骨格から溶解性に富み、しかも硬化後にはトリアジン環の凝集力による高い弾性率を達成できました。高性能化に向けた研究を現在も続けています。


3−2−3.液晶配向膜
 液晶配向膜には液晶の配向モードにより様々な材料が必要とされています。私たちはトリアジン環の容易な修飾基の導入に着目し、新規な液晶配向膜の開発に取り組んでいます。

3−2−4.有機・無機ハイブリッド材料
 有機ポリマーは様々な特性を示しますが、耐熱性の点で無機材料に及びません。無機材料は大変透明性に優れた耐熱性材料ですが、一般には脆く、加工性に問題があります。これら短所を解決する手法として、有機・無機ハイブリッド化が知られています。私たちの研究室ではトリアジン環にシランカップリング剤を導入することでポリイミドとシリカとのハイブリッド化に成功しました。従来の材料より、緻密な構造体であり、様々な用途展開が期待されています。


3−2−5.高屈折率材料
 ホームセンターでよく見かけるアクリル板は透明性が高く、加工性にすぐれた光学材料です。その屈折率は1.49と低く、アクリルでメガネを作ろうとするとガラスに比べてかなり厚いものになって今します。また、アクリルは熱可塑性樹脂ですから、天気のいい日に車のダッシュボードに置きっぱなしにしておくと容易に変形してしまいます。より薄く、頑丈な有機ガラスの開発が求められています。屈折率を上げるには、電子密度を上げればいいのです。この目的で、ハロゲンや硫黄が使用されます。しかしこれらの原子は耐候性が悪く、光により容易に着色します。私たちの研究室では光や熱に安定で、かつ高い屈折率を有する材料の開発に従事しています。


3−2−6.低誘電・低誘電損失材料
 みなさんの持つ携帯電話は年々小型化していますね。ノートパソコンもより小さく、それでいて動作速度も向上しています。これらの技術を支えているのはLSIの高密度、高集積化であり、さらにいうならば、フォトリソグラフィー技術の発達です。ところが、電気信号を通すための回路を細かくすればするほど、回路間を絶縁する材料にもある特性が求められるようになってきました。これが、低誘電率か、低誘電損失化です。誘電率が高いと、電気信号の遅延が起こります。また、誘電損失が大きいと、電気信号が熱エネルギーとなり失われてしまいます。絶縁材料の低誘電率化、低誘電損失化は、分子の極性を下げ、分子運動が起きにくくすることが求められます。しかしこれらは材料の耐熱性を著しく低下させます。私たちはこのジレンマに立ち向かうべく、新素材開発に取り組んでいます。

3−2−7.コーティング材料
 中華鍋で料理を作るとおいしい炒め物ができます。しかし、料理が終わっても鍋をそのまま放っておくと鍋は真っ赤にさびてしまいます。金属がさびないためには、表面をポリマーで被覆してしまうのが効果的です。しかし、一般的なポリマーは熱に弱く、食べ物の中に入ってしまうかもしれません。熱に強いポリマーは鉄とはくっつかずにはがれてしまいます。この問題を回避すべく、私たちは新規なコーティング材料開発に取り組んでいます。

3−2−8.燃料電池用プロトン伝導性フィルム
 化石燃料は大変便利なエネルギー源です。採掘可能年数はいつまでたっても40年と言われており、化石燃料が尽きることはなさそうです。しかし、化石燃料を安易に燃やし続けると、固体炭素が気体炭素に変換され、大気中に大量に存在することになります。これが温室効果を生み出し、地球の温度を向上させ、生態系に微妙な変化を起こしています。大きな変化が起こる前に、別のエネルギー源を探したほうがよさそうです。その一つが燃料電池です。燃料電池とは、水素と酸素から水が生成する際に得られるエネルギーを電気エネルギーに変えるシステムのことです。燃料電池には様々な部品が必要になりますが、中でもプロトンを輸送する高分子電解質は重要な役割を担っています。私たちもこの高分子電解質の性能を上げるべく、日々研究を続けています。

3−2−9.感光材料
 3−2−6項でも述べたとおり、フォトリソグラフィーの開発は人類の生活水準向上に大変大きく関わっています。フォトリソグラフィーの鍵となる物質は、感光性物質であり、それが増幅されるポリマーマトリックスです。私たちの研究室では、これら両者に関する研究を展開しています。より高感度で安全な物質の開発に力を注いでいます。


3−2−10.生分解性ポリマー
 化石燃料由来のポリマーは、温室効果による地球温暖化だけでなく、廃棄時に発生するダイオキシンが大気を汚染すること、埋立てにより地中に大変長い時間とどまることなど、様々な意味で環境破壊を引き起こします。信頼できる生分解性ポリマーの開発が急務です。生分解性ポリマーとしては、トウモロコシなど穀類の発酵により得られる乳酸を原料とするポリ乳酸、バクテリアの産生するポリエステルが知られています。しかしこれらはいずれも材料として使用するには耐熱性、機械特性に問題があります。私たちは金属代替のエンジニアリングプラスチックを天然物質から合成することで、環境破壊を低減させようと考えています。

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