実験室災害を防ぐための注意事項
<事故の起こりにくい実験室にするためには>
実験室内では普段より実験台・試薬棚・実験装置などの整理整頓に心がけるべきである。また実験前には実験器具・装置・配管・配線などを点検し、常に安全を確認する。実験操作は正確に注意深く行いう必要がある。また万一の場合に初期消火を速やかに行えるように、日頃から消火器の設置場所・使用法を熟知しておくべきである。岩手大学工学部の教職員および学生は下記の点に十分に留意しながら教育研究活動にあたってほしい。
(a) 実験室内外の設備に関する注意事項
1. 実験室の整理整頓・清掃を日頃より心がける。実験終了後の後始末も実験のうちであることを肝に銘じる。
2. 実験室内には十分な換気装置およびドラフトを備え付ける。
3. 実験室内を禁煙とし、喫煙は廊下などの定められた場所で行うように習慣づける。
4. 実験室の出入口には物品を置かず、常に安全な出入口の確保に心がける。また、防火扉・消火栓の周辺・廊下・階段などには障害物を置かない。
5. 消火設備・消火器・消火栓・火災報知器・非常ベル・防火砂・避難設備などの設置場所を普段から確認し、正常に作動することを定期的に点検しておく。
6. 各実験室ごとに救急箱を用意し、万一の場合の応急処置ができるようにする。
7. 室内の高い場所にはできるだけ物品を置かないようにする。やむを得ず置く場合には落下防止の措置を講じる。
8. 薬品棚や薬品庫は可能な限り不燃性の材料のものを使用し、転倒防止のために床・壁・柱などに固定する。特に薬品棚には滑り止め用のストッパーなどを取り付け、地震などで試薬ビンが落下・破損しないようにする。薬品庫の扉は引き違い戸にし、常に閉じておくべきである。
9. 実験装置は必ずスタンド・アングルなどに固定して転倒防止策を講じる。ロータリーバキュームエバポレータなども転倒しやすいので固定する。
10. リットル単位の大量の有機溶媒の保管は床の上に直接に設置された扉付きの薬品棚などを用いて行う。その際もできるだけ低い位置に置き、転倒防止などの措置を講ずる。有機系廃液についても同様に低い位置で貯留するべきである。
11. 規定の数量を越える危険物を実験室内に保管してはならない。特に可燃性の有機溶媒などは基本的には指定された危険薬品庫に保管し、必要量のみを小出しにして使用する。
12. 有機溶媒はひびのないガラス製の広口ビンなどに入れる。有機溶媒を入れたビンの間には段ボールなどの緩衝材を挟んで固定し、衝撃と倒壊に備えることが望ましい。大型の広口ビンなどはガムテープなどを胴体部に巻き付けておくだけでも破損時の被害を小さくすることができる。なお、大量の有機溶媒の保管容器としては金属製のいわゆる「一斗缶」が堅牢性・安定性ともに良好である。
13. 有機系廃液は「含ハロゲン系有機溶媒」と「非ハロゲン系有機溶媒」に分けて貯留する。少量の場合はその保管方法は有機溶媒と同様でよいが、大量となる場合には指定された危険物薬品庫に貯留する。特に含ハロゲン系溶媒を含む有機廃液には腐食性があるので、貯留の際には金属性の缶ではなく密閉のできる 20 L のポリタンクを使用する。
14. ガスボンベなどは保管場所を指定し、鎖などで壁に固定設置することにより万一の場合の転倒を防止する。また水素ガスなどの可燃性ガスのボンベは必ず換気装置のある実験室内に設置し、使用時にはこまめに状況の確認を行う。調圧器の故障は大事故につながりかねないので、普段より点検を怠らない。
15. 石油ストーブなどの補助暖房は実験室内ではなるべく用いない方がよい。ただ冬期の夜間などのやむを得ない場合には、十分な換気装置の設置された実験室内で実験台からできるだけ距離を置いて換気に留意しながら石油ストーブを使用する。しかし、可燃性有機溶媒や含ハロゲン系有機溶媒を使用している時にはストーブの使用を中止するべきである。
16. 帰宅時には実験室内の電気・ガス・水道の元栓を閉じ、施錠して退出する。無人で終夜通電するような実験の場合には万一の地震に備えて実験装置を固定し、操作条件の安定(水、電気、加熱など)を確認の上、標識などで実験中であることを示す。
17. 万一の場合に備え、研究室内の教職員と全学生の非常時用の電話連絡体制を備えておく。また、研究室内の全構成メンバーの血液型なども確認しておく。
(b) 安全に実験を進めるための日常的なこころがけ
1. 実験室内では白衣・ズック靴・眼鏡の着用を励行する。
2. 実験室内では原則的に禁煙とする。
3. バーナー・電気ヒーター・電気乾燥器・暖房器・ブラシ型の小型モーターなども火災の原因となりうる。これらの機材は不燃性の台(あるいはストーンテーブルなど)の上に設置し、けっして可燃物の近くで使用してはいけない。またガス瞬間湯沸かし器の種火もしばしば引火の原因となりうる。
4. ガスバーナーの火は使用後はこまめに消し、元栓を締める習慣をつける。使用していない電気器具もコンセントに差したままにしない。
5. 引火性溶媒などを扱っている時にはけっして近くに火気を置いてはならない。静電気も時には着火源となりうるので注意する。
6. 引火性溶媒の付着した実験器具を直火または加熱乾燥器などで乾燥してはならない。
7. 有機溶媒などの可燃性物質の取り扱いを実験室の入り口付近で行ってはいけない。
8. 一般に引火性の有機溶媒などは 500 mL 以上の大量を実験台上に置いてはならない。
9. 液体の蒸留・濃縮・加熱などを行う場合、途中から沸騰石を入れることはきわめて危険である。熱しながら入れると突沸が起こり、火事の原因となる。
10. 低沸点有機溶媒を蒸留する場合は、蛇管冷却器を用いる。冷却器が小さく水の通りが悪く加熱が強いと、引火性の溶媒蒸気が徐々に実験室内に放出されていくため、きわめて危険である。また、夜間など冷却器の送水が水道の断水や減圧のために弱くなったり止まったりすることがあるので、これらの可燃性溶媒を加熱する実験中は監視を怠ってはならない。
11. 湯浴で実験装置を加熱する場合に、中の湯がなくなって空焼きすることがある。思わぬ過熱になり発火事故を起こすことがあるので、監視を怠ってはならない。
12. 油浴を用いる場合はガスバーナー等による直火ではなく調節器を接続した二クロム線などによる加熱を行う。また特に 200 ℃以上の加熱を行う場合には、不燃性のシリコン油を加熱浴に使用すべきである。
13. 発火や有毒ガスの発生、爆発などの危険を伴うような実験は必ずドラフト内で行う。特に悪臭のする気体の発生するような実験を行う場合には、スクラバ式のドラフトを使用する。
14. アルカリ金属(ナトリウム・カリウム)の保管の際はガラス容器の外側を金属製の缶などで保護し、衝撃などによる容器の破損を防ぐ。取扱いの際には水との接触が起こらないよう注意しながら取り扱う。
15. 原則として、実験中は実験室を離れてはならない。やむを得ぬ場合には同室の者に実験内容や行き先などをはっきりと伝えておく。
16. 夜間や休日のみならず、平日もけっして一人だけで実験をしない。
17. 夜間連続実験の手続きと心得を知っておく。休日や夜間の実験の際には、必ず居残り届を提出する。
18. 実験室内で仮眠を取るのは防災の面でも健康管理の面でも好ましくない。やむを得ぬ場合には、換気や暖房による事故に十分に注意する。
19. 各種実験データは実験台などに置きっぱなしにせず、必ず整理保管する習慣をつける。とくに水溶性のインクなどを用いて書かれたグラフやチャート類は必ずコピーを取って別の場所に保管する。フロッピーディスクなどに入った実験データなども必ずバックアップを取り、安全な場所に保管する。
<火災が起こった場合の対策>
実験室内には各種の危険物や可燃物が保管されているが、これらの試薬類はしばしば高熱や燃焼により多量の有毒ガスを発生したり爆発を起こしたりする。また燃焼の際に大量の煙が発生することも多い。従って実験室の火災は通常の火災とはやや様子が異なる。万一実験室内で火災が起こった場合には、冷静沈着に行動することが大切である。大量に流れ出た有機溶媒に引火しない限り、たいていの場合には初期消火によって大きな災害になることは防げる。ただし通常は火を出した本人はたいていは気が動転しているために適切な判断ができない。従って火を出した本人はむしろその場を退き、周囲の者が率先して消火活動を行わねばならない。
1. 火災が発生したら大声で周囲の者に知らせ、共同で消火にあたる。けっして一人で消そうなどと考えてはならない。
2. 可燃性の有機溶媒(エーテル、アセトン、ベンゼン、アルコール類など)を入れたビンを倒したり破損させたりしないように特に注意しながら、火元から遠ざける。時には室外へ運び出す。有機系廃液も同様である。
3. 金属ナトリウム・カリウムなど水に対して激しく反応する試薬類の容器は速やかに実験室から運び出す。もしもこれらが火災源となっている場合には、ソーダ灰・食塩・石灰などの不燃性粉末を用いて覆うのが最適である。
4. 実験室内のガスの元栓を閉じる。配電盤の操作により室内の主電源を切る。
5. 火を吹き消そうとしてはならない。吹くとかえって火が燃え広がることが多い。基本的には消火器を用いて消火活動を行う。
6. むやみに水をかけてはいけない。特に化学実験室の火災はしばしば水で消火することができない場合がある。
7. 有機溶媒が流れ出して火が広がった場合には防火砂を撒く。砂に炭酸水素ナトリウム(重曹)を混ぜると一層よい。
8. 衣服への引火が起こらないように注意する。衣類に火が付いた時には小さい場合には手または有りあわせの物でもみ消すか、近くの水をかぶる。大きな火の場合には直ちに廊下に出て床の上に横になってころげまわり、火を押し消す。
9. ドラフト内での火災は上方への火災の拡大防止と消火の効果を考えるなら、換気を止めた方がよい。ただし煙や有毒ガスの発生を伴う場合には換気を続けた方がよい場合もある。
10. 消火の際には発火物質の性質に応じた消火法を行い、まわりに火が広がらないように注意する。
11. 有毒ガスの発生を伴うおそれのある火災の場合には、消火にあたって防毒マスク等の保護具を着用するか、少なくとも風上側から消火を行う。
12. 応急措置で間にあわない場合には速やかに火災ベル・電話などで消防機関へ通報するとともに、安全な場所へ避難する。火が大きくなってしまったら小型の消火器は全く無力である。特に火柱が天井まで到達するような大きな火災の場合は天井裏を通って他の部屋へ類焼することもあるので、早急に避難するべきである。
<地震への対応>
震度4以上の地震が起こると薬品棚や実験台上に置いた試薬ビンが転倒落下し、震度5以上になると薬品棚自体が転倒する。これが実際に火災の原因となり、地震の被害を大きくしていることは言を待たない。特に化学実験室の火災はアルカリ金属と水の混合発火によるものがきわめて多いと言われているので、地震が発生しても実験室の被害を最小にくい止めるためには危険薬品の管理が日頃より厳重に行われていなければならない。
(a) 地震が来たら
1. 地震の搖れが感じられたら、その搖れの大小に関わらず実験室内のすべての火を消す。また、「火を消せ!」と大声をあげて周囲の者に注意を喚起する。
2. 実験室の主電源を速やかに切る。
3. 実験に使用中のガスボンベや実験装置、有機溶媒のビンなど不安定に設置されているものをすばやく手で押さえ、転倒を防ぐ。
(b) 地震の直後の対策
地震の揺れは長くともたかだか1分程度である。揺れが特に大きい場合にはしばしば的確な判断ができなくなる場合もあるが、この間に上記の処置がなされていれば最悪の被害を免れることはできる。続いて、地震による揺れがおさまったら以下の点検を行う。大きな地震の後には複数回の余震が来ることも多い。地震の後には下記の注意事項に基づき速やかに実験室内の被害に対処し、余震で災害を大きくしないようにするべきである。
1. 実験室の被害状況を確認し、出火している場所があったら速やかに出火原因をつきとめて初期消火を行う。この際、「火事だ!」と大声で周辺に知らせ、協力して消火活動にあたる。ただし、アルカリ金属などの危険物が床にこぼれている場合には水を注ぐのは非常に危険である。
2. けが人の有無を確認し、必要な場合には速やかに救護にあたる。状況によっては医療機関への通報を行う。
3. 実験装置が転倒している場合にはコンセントを抜いてから本来の位置に戻して固定する。装置の電源をすぐに入れてはいけない。
4. 倒れたガスボンベを元の位置に戻す。この際にガスが放出している場合には、調圧器を用いて閉じる。
5. 転倒して床に試薬や有機溶媒などが散乱している場合には、それらを速やかに片づける。この時には部屋の窓を開放して十分に換気を行う。
6. 床や実験台の上のガラスの破片などを片づける。
7. 絶対に安全であることが確認されるまでは実験室内の主電源をオンにしてはいけない。
(c) 夜間に地震があった場合には
1. 実験室内が無人となる夜間に地震が起こった場合には、火気取締責任者はできるだけ速やかに実験室に駆けつけて被害状況を把握し、早急な復旧活動を指揮、あるいは実行する。また、夜間に無人運転で実験を継続している者も速やかに実験室に駆けつけて装置の安全確認などを行うべきである。
2. 大学の近傍に居住する教職員・学生は可能な限り速やかに実験室に駆けつけて地震の被害状況を確認し、実験室の早急な復旧を援護する。
3. 各学科に設置されている火警報装置などを確認し、学科内のどこかで火災が起こっていないかどうかを確認する。火災が起こっている場合には速やかに消火器などを持参して消火活動の援護に向かう。
4. 火災が起こっていない場合でも非常扉はおおかた閉じているはずであるから、学科内のすべての非常扉を元の状態に戻す必要がある。この際、自分たちの実験室以外の被害状況も一通り確認し、他研究室の者とも共同して復旧活動にあたることが望ましい。
<岩手大学工学部発行の「安全マニュアル 第2版」について>
以上の注意事項は岩手大学工学部が平成15年3月に発行した「安全マニュアル 第2版」の中から関連する部分を抜粋したものである。ちなみに「安全マニュアル 第2版」は平成15年4月より岩手大学工学部の全教職員・在校生・新入生全員に無料で配布されている冊子であり、教育研究活動を安全に進めていくための研究分野ごとの注意事項が細かく記載されている。本冊子の内容に関する問い合わせや取り寄せの希望等は下記の部署で取り扱っている。
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